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22-1 受動態の作り方

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第22章 受動態の形式

能動態の文を受動態の文にかえるには、動作を受けるもの(目的語)を主語にし、動詞を「be + 過去分詞」の形に変えればよいわけですが、その手順は次の通りです。

  1. 能動態の目的語を主語(主格)にかえ、文頭に置く
  2. 能動態の動詞を「be(の変化形)+ 過去分詞」の形に変える。
  3. 動作主を示す前置詞byを置き、その次にもとの主語を目的格にして置く
  4. 補語がある場合はそのまま残しておく。
  5. 目的語が2つある場合は、普通その一方を残しておく。
  6. 修飾語句はそのままつける。

【注】by~の省略:
能動態の主語が受動態ではいつも「by +目的語」の形で用いられるとは限りません。むしろby~は省略されることが多く、だれによってなされたか、動作主を明らかにする必要がある場合にのみby~を用いるといったほうが実際的です。

A volcano destroyed Pompeii. 〔能動態〕
Pompeii was destroyed by a volcano. 〔受動態〕


ここでは、ポンペイという古代の都市を破壊したのは人力や戦争ではなく、「火山」であることが重要な記述要素になっているので、by以下の動作主は省略しません。これに対して

$$
\begin{cases}
\text{They speak English and French in Canada. 〔能動態〕} \\
\text{English and French are spoken in Canada. 〔受動態〕} \\
\text{(カナダでは英語とフランス語が話される)} \\
\end{cases}
$$

ここで、英語とフランス語を話すtheyは特定の「彼等」ではなく、漠然とカナダにいる人たち一般を指しているので、受動態でby themは用いません。
要約すれば、by~が省略されるのは、

  1. 能動態の主語がwe、you、they、peopleなどのような一般人称で、漠然と動作の関係者を示す場合
  2. 行為者をはっきりと示すことが困難か、あるいは明示することをおそれたり、必要としない場合
    であるといえます。
    なお、by~を用いず、by以外の前置詞が受動態の文中で用いられる場合もあります。これについては「23-2 by以外の前置詞を用いた受動態」を参照してください。
  1. 「S + V + O」の文型
    $$
    \begin{cases}
    \text{Somebody did someting. (だれかが何をした)} \\
    \text{Something was done by somebody.} \\
    \text{(何かがだれかによっておこなわれた)}
    \end{cases}
    $$ 
    $$
    \begin{cases}
    \text{Economic considerations often influence living expenses. } \\
    \text{(経済事情がしばしば生活費に影響を及ぼす)} \\
    \text{Living expenses are often influenced by economic considerations.} \\
    \text{(生活費はしばしば経済事情によって影響を受ける)}
    \end{cases}
    $$

    【注】目的語が名詞節のときは、二通りの受動態が可能です。
    They say that he failed in business.
    (人々は彼が事業に失敗したと言っている)

    They say that he failed in business.
    (人々は彼が事業に失敗したと言っている)
    1. It is said that he failed in business.

    2. He is said to have failed in business.
    (彼は事業に失敗したという話だ)

  2. 「S + V + IO + DO」の文型
    この場合は、原則として間接目的語(IO)を主語とする受動態と直接目的語(DO)を主語とする受動態の2つが可能です。
    The bank lent him a large sum of money. (銀行は彼に多額の金を貸した)
    1. He was lent a large sum of money by the bank.
    (彼は銀行から多額の金の貸付をうけた)
    2. A large sum of money was lent (to) him by the bank.
    (多額の金が銀行から彼に貸し付けられた)
    We promised the young man a new position in the company.
    (〔我々は〕その青年に会社の新しいポジションを約束した)
    1. The young man was promised a new position in the company.
    (その青年は会社の新しいポジションが約束された)
    2. A new position in the company was promised (to) the young man.
    (会社の新しいポジションがその青年に約束された)

    【注】上記の2つの例文中の②のように、直接目的語が主語となった受動態においては、とり残された間接目的語の前にはしばしば前置詞to、forまたはofが添えられます。

    $$
    \begin{cases}
    \text{He offered me a bilateral contract. (彼は私に双務契約を申し出た)} \\
    \text{A bilateral contract was offered (to) me by him.} \\
    \text{(双務契約が彼から私に申し込まれた)}
    \end{cases}
    $$ $$
    \begin{cases}
    \text{Companies provide employees (with) various welfare facilities.} \\
    \text{(会社は従業員にさまざまな福利施設を設ける)} \\
    \text{Various welfare facilities  are provided for employees by companies .} \\
    \text{(さまざまな福利施設が会社によって従業員(のため)に設けられる)}
    \end{cases}
    $$$$
    \begin{cases}
    \text{He asked me several questions. (彼は私にいくつか質問をした)} \\
    \text{Several questions were asked (of) me by him.} \\
    \text{(いくつかの質問が彼から私になされた)}
    \end{cases}
    $$
  3. 「S + V + O + C」の文型
    補語は受動態の主語になることはできませんので、原則的にはこの文型は「S + V + O」の文型の場合と同じ仕方になります。
    $$
    \begin{cases}
    \text{The stockholders elected him the next president.} \\
    \text{(株主たちは彼を次期社長に選んだ)} \\
    \text{He was elected the next president by the stockholders.} \\
    \text{(彼は株主たちによって次期社長に選ばれた)※〔並列〕} \\
    \end{cases}
    $$

    【注】能動態では知覚動詞や使役動詞のあとではtoをつけない補語としての不定詞も、受動態ではtoを必要とします。

    $$
    \begin{cases}
    \text{We never saw him slow down in his work.} \\
    \text{(彼が仕事をさぼるのを見たことはなかった)} \\
    \text{He was never seen to slow down in his work.} \\
    \end{cases}
    $$
    $$
    \begin{cases}
    \text{He made me sign my name to the contract.} \\
    \text{(彼は私にその契約書に署名させる)} \\
    \text{I was made to sign my name to the contract by him.} \\
    \end{cases}
    $$