好評連載コラム 実務翻訳のススメ

35-1 平叙文における定型の倒置

 

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第35章 語順

日本語、英語を問わず、どの国語にも長い歴史の間に固定された伝統的な語順があり、人々は無意識のうちにそれに従っています。語順における一定の型がそれぞれの国民の言語意識の中に深く浸透し、それが独特の言語文化を形成してきました。
この章の冒頭でも、日英両国語の語順の根本的な相違についてその一端を紹介しましたが、以下、倒置・強調・省略・そう入等の諸構文について要約してみましょう。

英文、とくにその平叙文においては「主語 + 動詞」が正規の語順であることは周知のことですが、特定の語句を強調することによって動詞や助動詞が主語の前に置かれることがあります。これを倒置といいます。
ここではとくに補語や目的語あるいは修飾語(句)が強調されて文頭に出たため、主語と動詞の順序が転倒する場合と、前文との関係から後続する文中で定型が倒置される場合について述べてみましょう。

  1. 補語の強調による倒置
    A remarkable man was his father. (彼の父親は非凡な人であった)
    Great was our president’s satisfaction.
    (社長の満足はたいへんなものであった)
    【注】上の例のように補語が文頭にきて定型倒置がなされるのは、修飾語句が付いて主部が長くなった場合によく見られます。
    したがって、主語が代名詞であったり、短い場合、あるいは補語が「the + 比較級」で修飾されている場合には倒置しないこともあります。
    A great man he was. (=What a great man he was!)
    (彼は実に偉大な男であった)
    The more learned a man is, the more modest he should be.
    (人は学問があればあるほど謙虚であるべきだ)
  2. 目的語の強調による倒置
    この構文は最近はあまり用いられませんが、主語が人称代名詞で、目的語に否定を表す語句やonly、manyなどの強調語句が伴う場合に見られることがあります。
    No address had he written upon the document.
    (→ He had not written any address on the document.)
    (彼はこの書類に住所は書かなかった)
    Only a few persons did I know among the attendance.
    (出席者の中で私の知っていた人はほんのわずかだった)
    なお補語の場合と同じように、目的語が「the + 比較級」で修飾されている場合は倒置しません。
    The more (things) he gets, the more (things) he wants.
    (彼はもうけが多ければ多いほど、ますます多く欲しがる)
  3. 副詞(句)
    Down came the stock price at once. (株価は一挙に下落した)
    Upon very slender arguments do they build up their opinions.
    (きわめて貧弱な論拠に立って彼らは意見をたてる)
  4. ifを省略した条件文における倒置
    Had I (=If I had) the money, I would buy it.
    (私にその金があったら、それを買うのだが)
    Should there be (=If there should be) any fresh developments, we will communicate with you.
    (何か新しい進展があったらお知らせします)
  5. 直接話法で伝達部(「だれだれが言った」)が被伝達文(“――”)の途中または後に置かれた場合 ―― とくに伝達部の主語が名詞のとき
    “Yes,” said Tom, “I usually join my family for supper.”
    (トムは言った「ええ、たいてい夕食は家族と一緒ですよ」)
    “I’m sorry, I can’t help it,” replied the shop assistant.
    (「残念ですが、応じかねます」と店員は答えた)
  6. 「~もまた」の意味のso、neither、norが文〔節〕の先頭に置かれた場合
    The door was shut, and so were the windows.
    (ドアも閉まっていたし、窓も閉まっていた)
    He didn’t go there, and neither did I.
    (彼はそこに行かなかった、私もまた行かなかった)
    The story is too long, nor is the style easy.
    (話が長すぎるし、文体も易しくはない)