第15章 動詞の時制
15-2-1 完了時制の種類と形
完了時制とは、現在・過去・未来のある時を基準にして、動作の完了・結果、経験、動作や状態の継続を表すもので、その基準となる時に応じて、現在完了時制、過去完了時制および未来完了時制の3種があります。それぞれの形は次の通りです。
- 現在完了形:「have〔has〕+ 過去分詞」
- 現在完了形:「have〔has〕+ 過去分詞」
- 未来完了形:「will〔shall〕have + 過去分詞」
15-2-2 現在完了時制の用法
英文法を学ぶ際にとくに感ずる困難のひとつに現在完了時制があります。それは元来日本語の時制に関する観念が大まかで、現在・過去の区別が必ずしも明確でなく、まして現在完了的な観念がきわめて乏しいことに原因があるのかもしれません。たとえば、
- 「私のおじは京都に住んでいます」
- 「私のおじは去年から京都に住んでいます」
の2文で、日本語ではともに「住んでいます」と現在時制を用いていますが、英語では、
1 はMy uncle lives in Kyoto.
と、いま現在住んでいることに焦点をおいて現在時制を用い、
2 はMy uncle has lived in Kyoto since last year.
と去年から今まで(ずっと)住んでいるという意味で、過去(去年)から今に至るまで続いている状態を示す現在完了時制を用います。また、 - 「昨夜はとても愉快でした」
- 「今夜はとても愉快でした」
の2文で、日本語はともに「愉快でした」と過去時制を用いていますが、英語では、
3 はWe had a very good time last night.
と「昨夜」が明らかに過去を表しているので、動詞も過去時制を用いますが、
4 はWe have had a very good time tonight.
のように現在完了時制を用います。これは「今夜」がまだ終わっていない、あるいはまだ今夜の中であることに焦点が置かれているからです。
つまり、英語の現在完了時制はただ単に現在や過去のできごとを述べるのではなく、過去に起きたできごとの影響や結果が「現在」どうなっているのかを示すものです。言いかえれば、現在完了とは「過去とのつながりをもった現在」「過去を背負った現在」と言ってもよいでしょう。
英語の現在完了時制は、ふつう
- 現在に至るまでの動作の完了
- 過去の動作の結果生じた現在の状態
- 現在に至るまでの経験
- 現在に至るまでの状態の継続
の4つの用法を表します。
- 現在に至るまでの動作の完了
「~してしまった」「~したところだ」の意味で、いままでやっていた動作が現在の直前に完了したことを示します。
この用法では、already(すでに、もう)、just(ちょうど)、now(今、もう)、yet(もう、まだ)のほか、lately〔recently〕(最近)、today(きょう)、this morning〔week、month、year〕(今朝〔週、月、年〕)などの副詞(句)がよく一緒に用いられます。
He has already finished his task. (彼はもう自分の仕事を終えました)
“Have you finished your task yet?” “No, not yet.”
(「もう仕事は終わりましたか」「いいえ、まだです」)
Have you already finished your task?
(もう仕事が終わったのですか ―― まさか)
【注意】alreadyは、ふつう肯定文に用いられますが、疑問文に用いられることもあります。この場合は「もう~したのか」と驚きや意外を表します(上記の3番目の例文)。 - 過去の動作の結果生じた現在の状態
「~していまは・・・」の意味を表し、過去の動作の結果いまどうなっているのか、現在の状態を述べるときに用いるもので、時を表す副詞(句)はふつう伴いません。
I have lost all my property.
(私は全財産をなくした ―― 今それを持っていない)
He has gone out on business.
(彼は用事で出かけた ―― ここにはいない)
The Japanese have come to enjoy a longer average life span than other countries in the world.
(日本人の平均寿命は世界のどの国よりも長くなった ―― いまもそうだ) - 現在に至るまでの経験
「~したことがある」の意味で、動作そのものは過去のことでも、その経験が現在に生きていることを表す言い方です。
よく伴う副詞(句)には、before(以前に)、ever(いままでに)、never(一度も~ない)、often(しばしば)、once(一度)、seldom(めったに~ない)、sometimes(時々)、three times(3回)などがあります。
I have visited the factory once or twice.
(その工場は一・二度訪ねたことがあります)
Have you ever learned how to run a business?
(今までに事業経営のしかたを学んだことがありますか)
I have never seen such a delicate mechanism.
(こんなに精巧な機械は見たことがありません)
【注意1】have gone〔come〕toとhave been toの使い分け
「行ったことがある」「来たことがある」と「経験」を表す場合には、ふつうgo、comeは用いずbeが代用されます。go、comeが用いられるのは「結果」を表す場合です。
$$
\begin{cases}
\text{He has gone to Bangladesh. } \\
\text{(彼はバングラデシュに行った(ここにはいない)-結果)} \\
\text{He has been to Bangladesh several times. } \\
\text{(彼は何回かバングラデシュに行ったことがある―経験)} \\
\end{cases}
$$
【注意2】have been toとhave been in〔at〕の2用法
have been toには「~へ行ったことがある」(経験)のほか、「~へ行ってきたところだ」(完了)の意味も表します。
$$
\begin{cases}
\text{I have often been to the head office. } \\
\text{(本社にはよく行ったことがある-経験)} \\
\text{I have just been to the head office. } \\
\text{(本社に行ってきたところだ―完了)} \\
\end{cases}
$$
have been in〔at〕は「~に〔行って〕いたことがある」(経験)のほか、「ずっと~に〔行って〕いる」(継続)の意味も表します。
$$
\begin{cases}
\text{Hes she ever been in Paris? } \\
\text{(彼女はパリに〔行って〕いたことがあるのですか-経験)} \\
\text{She has been in Paris since last April. } \\
\text{(彼女は去年の4月からパリに〔行って〕います―継続)} \\
\end{cases}
$$
同じ現在完了形でも常に同じ意味・用法であるとはかぎりません。副詞(句)や文中の前後関係から判断することが必要でしょう。
【注意3】「過去時制」のところでも触れましたが、「経験」を表す現在完了の代わりに、過去時制を用いることがよくあります。
I have never dreamed (that) he would have such success.
= I never dreamed (that) he would have such success.
(彼がこれ程の成功を収めるとは夢にも思わなかった)。 - 現在に至るまでの状態の継続
「ずっと~だ」の意味で、過去から現在まで継続し、さらに今後も続くかもしれない状態を表す言い方で、時の起点を表すsince~(~以来)、期間を表すfor~(~の間)、these~(ここ~の間)などの副詞句がよく一緒に用いられます。
He has lived here in New York since 1960.
(彼は1960年以来このニューヨークに住んでいる)
I have known him for ten years. (彼とは10年来の知り合いだ)
She has been ill these past three weeks. (彼女は3週間このかた病気だ)
【注意】「継続」を表す現在完了に用いられる動詞は、be、know、love、hate、see、hear、understandなど状態を表す動詞に限られ、動作を表す動詞には現在完了進行形(have been-ing)を用います。
$$
\begin{cases}
\text{He has been in his room since his morning. (彼は今朝からずっと部屋にいる)} \\
\text{He has been writing a report. (彼はずっと報告書を書いている)} \\
\end{cases}
$$ - (4)現在完了の注意すべき用法
現在完了時制は現在の立場から過去の事実の結果や影響について述べる言い方ですので、一般に明らかに過去を表す語句とともに用いることはできません。- その他注意すべき用法
- yesterday、~ago、last~、日時・年号など
I know him from five years ago. (正)
I have known him five years ago. (誤)
ただし、agoの代わりにforを用いて、I have known him for (the last) five years.(彼を知って5年になる)は正しい。 - 疑問詞としてのwhen
When did you come to know him? (正)
When have you known him? (誤)
ただし、since when(いつから)の形を用いて、Since when〔またはHow long〕have you known him?は正しい。 - just now(今しがた、ついさっき)
ただし、just(ちょうど、~したばかり)は現在完了の文に用いることができます。
He arrived just now. (彼はついさっき到着した)
He has just arrived. (彼はちょうど到着したところだ)
- yesterday、~ago、last~、日時・年号など
- 現在完了の文中でも用いられる「時」を表す副詞語句
- today、this morning〔week、month、year〕など
ただしこれは、その日・週・月・年などがまだ終わらないときには現在完了とともに用いることができますが、終わった場合には過去時制とともに用います。
I have not read the paper this morning.
(今朝は新聞を読んでいない ―― まだ午前中の場合)
I did not read the paper this morning.
(今朝は新聞を読まなかった ―― 午後または夕方の場合) - now、just、lately〔recently〕、beforeなど
ただし、最近の過去の一時点を表す場合には過去時制が用いられます。
I have seen him quite recently. (つい最近彼に会ったことがある)
It was only recently that I saw him.
(彼に会ったのはほんの最近のことであった) - already、yet、ever、neverなど
これらは現在・過去時制にも用いられます。
$$
\begin{cases}
\text{I have already seen him. (もう彼にお目にかかりました)} \\
\text{They are already there. (彼はもうそこにいます)} \\
\text{He was already out when we arrived.} \\
\text{(私たちが着いたときにはもう彼は出かけていた)}
\end{cases}
$$ $$
\begin{cases}
\text{Has he returned yet? (彼はもう帰ってきたのか)} \\
\text{There is work yet to be done.} \\
\text{(まだこの上しなければならない仕事がある)}\\
\text{I thought it was not time to do so yet.} \\
\text{(まだそうする時間ではないと思っていた)}
\end{cases}
$$
$$
\begin{cases}
\text{Have you ever visited the factory in Japan?} \\
\text{(日本にあるその工場を訪ねることがありますか)} \\
\text{Is he ever at home? (彼は家にいることがあるのですか)}\\
\text{Did you ever see him while you were in Tokyo?} \\
\text{(在京中彼にお会いになりましたか)}
\end{cases}
$$ $$
\begin{cases}
\text{I have never heard of such a foolish thing} \\
\text{(そんな馬鹿げたことは聞いたことがない)}\\
\text{He never spoke about his own successes.} \\
\text{(彼は自分の成功を話すことはなかった)}
\end{cases}
$$ - sinceおよびsinceに導かれる句〔節〕
ふつう現在完了時制の文に用いられますが、過去のある時点から現在までの時の総和や、過去のできごとに端を発する現在の状況を表すときには現在時制の文でも用いられます。
He has been here since five o’clock. (彼は5時からずっとここにいる)
I haven’t seen him since he left.
(彼が去ってから私は彼には会っていない)
It is about forty years since the war ended.
(戦争が終わってからおよそ40年になる ―― 総和)
She is nervous of riding in a car since she was involved in that accident.
( あの事故にあって以来彼女は車に乗るのをこわがっている ―― 現在の心境)
- today、this morning〔week、month、year〕など
- 完了形have gotの用法
口語では、have(持っている)と同じ意味でhave gotを、またhave to(=must しなければならない)と同じ意味でhave got toを用いることがあります。
I’ve got (=I have) some rather serious news.
(重大なお知らせがあります)
Have you got (=Do you have) a newspaper?
(新聞をお持ちですか)
I’ve got to (=I have to) write a letter to him.
(私は彼に手紙を書かねばならない)
- その他注意すべき用法
15-2-3 過去完了時制の用法
「had + 過去分詞」の形を過去完了形といいます。過去完了時制は「過去のある一定の時を基準にして、それ以前の動作の完了・結果、経験、状態の継続」などを表します。要するに現在完了時制とのちがいは基準点が現在から過去にさかのぼったにすぎず、
現在:現在完了 = 過去:過去完了
といってもよいでしょう。
- 過去のある時までの動作の完了
ふつう基準になる過去を示す語句が前後に用いられます。主なものとしてはwhen、after、before、till〔until〕などの接続詞のほか、関係代名詞・関係副詞などがあります。
When I telephoned him, he had already left the office.
(電話をかけたとき、彼はもう会社を出てしまっていた)
He had left the office before I telephoned him.
(私が電話をかけないうちに、彼は会社を出てしまっていた)
After he had left the office, I telephoned him.
(彼が会社を出てしまったあと、彼に電話をかけた) - 過去のある時における、それ以前の動作の結果
I bought a new cassette player, as I had broken the old one.
(古いのを壊してしまったので、新しいカセットプレーヤを買った)
It was one of the greatest things that he had ever achieved.
(それは彼が成し遂げた業績中、最も卓越したものの一つであった) - 過去のある時までの経験
I did not know what to do, because I had never met with such an accident.
(そうした事故に遭遇したことがなかったので、どうしてよいかわからなかった)
I knew the neighborhood very well, for I had often been there.
( 私には近辺のことはよくわかっていた、そのときまで何度も行ったことがあったからである) - 過去のある時までの状態の継続
He had been sick in bed for a week, when I went to see him.
(私が訪ねて行ったら、彼は一週間も前から病気で床に臥していた)
In 1985 he had been at work (for) twenty years.
(1985年には、彼は仕事について20年になっていた)
ただし、「動作」の継続を表すときには、過去完了進行形(had been + -ing)を用います。
He fell ill last week. He had been working too hard.
(彼は先週病気になった。それまで働きすぎていたからであった) - 間接話法・仮定法における用法
直接話法の被伝達文が現在完了・過去・過去完了のときは、間接話法ではいずれも「時制の一致」の関係で過去完了になります。
また仮定法で、過去において実現されなかったことに対する願望を述べる場合にはしばしば過去完了形を用います。
He said to me, “I have never been transferred to overseas service.”
→ He told me that he had never been transferred to overseas service.
(彼は海外転勤を命ぜられたことはないと私に言った)
I wish I had taken measures a little earlier.
(〔あの時〕もう少し早く手を打っておけばよかったのに) - 過去完了の注意すべき用法
過去完了は過去のある時を基準にして、それ以前に行われたことについて述べる言い方でしたが、特にandやbefore、afterなど順序がはっきりしている場合には、過去完了形の代わりに過去形を用いることができます。
ただし、あとに起きたことを先に述べる場合は、以前の動作は過去完了形を用います。
I got up at six, ate breakfast at seven, and left home at eight.
(私は6時に起床し、7時には朝食をとり、8時に家を出た)
$$
\begin{cases}
\text{I drew my money from the bank and gave it to him.} \\
\text{(私は銀行から預金を出し、それを彼に与えた)} \\
\text{I gave him my money (which) I had drawn from the bank.} \\
\text{(私は銀行から預金を出し、それを彼に与えた)} \\
\end{cases}
$$
15-2-4 未来完了時制の用法
「will〔shall〕have + 過去分詞」の形を未来完了形といいます。
未来完了時制は、「未来のある時を基準にして、動作の完了・結果、経験、状態の継続」を表します。つまり未来時制と完了時制の2つを結びつけた用法であるといえます。
なお、will、shallの用法は単純未来の用法に準じます。
- 未来のある時までの動作の完了
When I get to the station, the train will have already left.
(駅につくころには、もう列車は出てしまっているだろう)
I will have finished all the work by the time you come back.
(あなたが帰るまでには、私は仕事を全部すませているだろう)
[注]今日では、この意味の未来完了よりはむしろ単純未来のほうが多く用いられています。
I will finish all the work by the time you come back. - 未来のある時における動作の結果
He will have gone when you return.
(あなたが帰ってくるころには、彼は行ってしまっているだろう)
This town will have been completely changed in a few years.
(2・3年のうちにこの町もすっかり変っているだろう) - 未来のある時までの経験
I am going to visit China next spring, and then I will have been there three times. (来年中国を訪問するが、それで3回行ったことになる)
How often will he have won the championship if he wins again?
(また勝つと、彼は何回優勝したことになるのだろう) - 未来のある時までの状態の継続
Next November we will have been married for thirty years.
(この11月で結婚して30年になる)
They will have lived here for more than twenty years by the end of this year.
(今年の暮れになると、彼等は20年以上もここに住んでいることになろう)
[注]when、if、after、till〔until〕、as soon asなどの接続詞ではじまる時や条件を表す節の中では、未来完了時制のかわりに現在完了または過去完了が用いられます。
You can go if you have finished the work.
(仕事を済ませたら引きさがってよろしい)
I asked him to wait till〔until〕I had exchanged my American money into Japanese yen.
(米貨を日本円に両替えするまで待ってくれるよう彼に頼んだ)