日本語は数の観念が大まかで、名詞の単数・複数は、「先生方」、「山々」、「子どもたち」のように接尾語をそえたり、文脈によって判断することが多いのですが、英語においては、まず名詞そのものについて「数えられる名詞」、「数えられない名詞」の区別があります。また、単・複の使い分けがきびしく、複数形のつくり方も複雑であるばかりでなく、単・複によって意味が異なってくる場合があります。我々日本人にとって、英語の数の観念はなかなか理解しにくいものの一つと言えます。以下その大略をまとめてみましょう。
- 複数形のつくり方
複数の形には規則的なものと、不規則的なものとがあります。- 規則的複数
- 語尾にsをそえる場合 ―― 発音は〔s〕、〔z〕の二通りあります。
books、caps、months、rackets / apples、dogs、hands、picturesなど - 語尾にesをそえる場合 ――語尾が〔、、、、、〕の発音(つづり字では-s、
-z、-sh、-(t)ch、(d)ge、-xなど)で終わる場合で、発音は〔iz〕。
kisses、dishes、benches、boxesなど
【注1】語尾が発音しない文字(黙字)のeで終わっている単語は、ただ-sをつけます。
bridge〔〕→
house〔haus〕→
【注2】語尾のつづりが-chで終わっていても、発音が〔k〕の場合は単に-sをつけます。
monarchs(君主)、stomachs〔stmks〕(胃) - 語尾がyで終わる場合
- 「子音字+y」で終わる語は、yをiにかえて、-esをつけます。
city → cities、country → countriesなど - 「母音字+y」で終わる語はyをそのままにして-sをつけます。
boys、chimneys(えんとつ)、keys、monkeysなど - 人名の場合はつづり字に関係なく-sをつけます。
Mary → Marys、Henry → Henrys、Grey → Greysなど
- 「子音字+y」で終わる語は、yをiにかえて、-esをつけます。
- 語尾がfまたはfeで終わる場合
- f、feをvesにかえ、〔-vz〕と発音するもの
half → halves、knife → knives、leaf → leaves、life → livesなど - そのまま-sをつけるもの
chiefs、beliefs、griefsなど - -vesと-fsの両形があるもの
$$ \mathtt{scarf}(スカーフ)→ \begin{cases}
\mathtt{scarfs} \\
\mathtt{scarves}
\end{cases}
$$
$$
\mathtt{wharf(波止場) →}
\begin{cases}
\mathtt{wharfs} \\
\mathtt{wharves}
\end{cases}
$$
- f、feをvesにかえ、〔-vz〕と発音するもの
- 語尾がoで終わる場合
- 「子音字+o」で終わる語の多くは、-esをつけます。
echoes(こだま)、heroes(英雄)、potatoes、tomatoesなど
【注】-oで終わる語には外来語が多く、その中で全く英語化したものには-esをつけますが、まだ十分に同化していないものには単に-sをつける傾向があります。
dynamos(発電機)、kilos(キロ)、pianos(ピアノ)など - 「母音字+o」で終わる語の多くは、-sをつけます。
bamboos(竹)、cuckoos(カッコウ鳥)、studios(スタジオ)など - -s、-esのいずれもつけることができる語
cargo(e)s(積荷)、motto(e)s(標語)、volcano(e)s(火山)、zero(e)s(ゼロ)
- 「子音字+o」で終わる語の多くは、-esをつけます。
- 語尾がiで終わる場合、通例-sをつけます。
alkalis(アルカリ)、skis(スキー)など
(ただし、alkalisはalkaliesともなり、skiはこのままで単・複にも用いられます。)
- 語尾にsをそえる場合 ―― 発音は〔s〕、〔z〕の二通りあります。
- 不規則的複数
単数形に-s、-esはつけず、語幹そのものを変化させたり、語尾に-enをつけたり、不変化のものなどもあります。- 母音変化によるもの
man → men、woman → women、foot → feet、tooth → teethなど - 語尾変化(主として(r)en)によるもの
child → children、ox → oxen、brother → brethren(教会員)など - 不変化(単・複同形)のもの
- つづり字は同じでも発音が異なるもの
corps(軍団) - つづり字も発音も同じもの
Japanese(日本人)、Chinese(中国人)、Swiss(スイス人)、sheep(羊)、deer(鹿)、salmon〔smn〕(さけ〔魚〕)
【注】fish(魚)、fruit(くだもの)などは、総称として用いるときは単・複同形ですが、異なった種類を表すときは、複数形はfishes、fruitsになります。
- つづり字は同じでも発音が異なるもの
- 数詞のあとに置くとき複数形をとらないもの
two dozen shirts(シャツ2ダース)
ten head of cattle(畜牛10頭)
しかし漠然と多数を意味する場合は複数形をとることがあります。
$$
\begin{cases}
\text{she bought two dozen eggs. (彼女は卵を2ダーズ買った) } \\
\text{she bought dozens of eggs. (彼女は卵を何ダーズか買った)} \\
\end{cases}
$$ - 数詞と結合して形容詞に似た働きをする名詞も通例複数形はとりません。
A three–year-old child (3歳児)
An eight–hour laborer (8時間労働者)
A ten–day visit (10日間の訪問)
A thirty–minute break (30分間の休憩)
ただし所有格形(-s’)を用いた言い方もあります。
three months’ notice (3ヵ月の予告)
five miles’ walk (5マイルの徒歩行程)
- 母音変化によるもの
- 外来語の複数
- 原語固有の語尾変化によるもの
crisis(危機)→ crises、 datum(資料)→ data、 genus(種属)→ genera、phenomenon(現象)→ phenomenaなど - 主としてイギリス流に-s、-esをつけ、まれに原語流にするもの
dogma(独断)→ dogmas / dogmata
condominium(分譲アパート)→ condominiums / condominia - 原語流とイギリス流を併用するもの
appendix(付録) → appendices / appendixes、
focus(焦点)→ foci / focuses、
formula(公式)→ formulae / formulasなど
- 原語固有の語尾変化によるもの
- 合成語の複数
- 2語以上から成る合成名詞は、普通その中の主要語を複数形にします。
fathers-in-law(義父)、editors-in-chief(編集長)、
fellow-students(同級生) - 名詞を含まない合成語、または名詞があってもどれが主要語かはっきりしない語は最後の語を複数形にします。
run-aways(脱走者)、go-betweens(仲介者)、
stop-overs(途中下車〔権〕、途中下車地) - 尊称をつけた人名の複数
- 尊称だけを複数形にする場合
Drs. Smith and James(スミス、ジェームス両博士)
Messrs.〔msrz〕(=Messieurs)Robinson & Co.(ロビンソン商会御中) - 人名だけを複数形にする場合
the Miss Bells(ベル姉妹)、two Mr. Browns(両ブラウン氏)
- 尊称だけを複数形にする場合
- 2語以上から成る合成名詞は、普通その中の主要語を複数形にします。
- その他の複数
- 固有名詞の複数
- 多くは語尾に-sをつけます。
Smiths、Robinsons、Tanakas、Ottos、Greys、Henrys、Marysなど - の音で終わるものは-esをつけます。
Thomases、Buches、Hodgeses、Marxesなど
- 多くは語尾に-sをつけます。
- 文字・数字・符号などの複数形は普通-’sをつけます。
s → s’s、3 → 3’s、t →t’s
Your 3’s look like 8’s. (あなたの3は8のように見える) - 文中の引用語句の複数形は一般に-’sをつけます。
He said many “yes’s” in his speech. (彼は演説中”yes”を多用した) - 略語の複数形
p.〔=page(ページ)〕→ pp. Fig.〔=Figure(図)〕→ Figs.
Dr.(=Doctor)→ Drs. Prof.〔=Professor(教授)〕→ Profs.
- 固有名詞の複数
- 規則的複数
- 複数形を二通りもつ名詞
名詞の中には2種の複数形をもち、意味も異なるものがあります。
〔単数〕 〔複数〕 brother …… brothers(肉親の兄弟)brethren(同胞、教会員) cloth …… cloths(布の種類)clothes〔klouz〕(衣類) index …… indexes(索引)indices(指数) penny …… pennies(ペニー銅貨)pence(ペニー価格) staff …… staffs(参謀、職員)staves(杖、指揮棒) - つねに複数形をとる名詞
名詞には、次のようにいつも複数形を用いるものがあります。- 衣服・装身具・器具(一対になっているものが多い)
trousers(ズボン)、 socks(短い靴下)、 spectacles(めがね)、
compasses(コンパス)、 scales(はかり)、 scissors(はさみ)、
several pairs of trousers(ズボン数着)、 a pair of scissors(はさみ1丁) - 遊戯
billiards(玉突き)、 cards(トランプ遊び)、 dominoes(ドミノ遊び) - 場所・建造物
headquarters(司令部)、 premises(構内)、 stairs(階段)、
suburbs(郊外)、 surroundings(環境)、 works(工場) - 身体の部分・病気・気分
bowels(腸、内臓)、 measles(はしか)、 sniffles(鼻かぜ) - 学問名
ethics(倫理学)、 linguistics(言語学)、 mathematics(数学)、
statistics(統計学)、 dietetics(栄養学)
ただし、arithmetic(算数)、logic(論理学)、rhetoric(修辞学)などは語尾に-sはつきません。 - その他
earnings(収入)、 savings(貯蓄)、 movables(動産)、
valuables(貴重品)、 thanks(感謝など)
[注] 上記2以下は形は複数形でも、動詞はふつう単数で受けます。
Billiards is a popular indoor game.
(ビリヤードは人気のある室内遊戯である)
The works was closed last month.
(その工場は先月閉鎖された) - 単数と複数で意味の異なる名詞
名詞の中には単数と複数で意味の全く異なるもの、あるいは単・複いずれかの形に特別の意味をもつものがあります。
$$ \begin{cases} \text{authority} & (権威) \\ \text{authorities} & (当局) \end{cases} $$$$ \begin{cases} \text{brain} & (脳) \\ \text{brains} & (知力) \end{cases} $$$$ \begin{cases} \text{content} & (容積) \\ \text{contents} & (目次) \end{cases} $$$$ \begin{cases} \text{custom} & (習慣) \\ \text{customs} & (関税) \end{cases} $$$$ \begin{cases} \text{force} & (力) \\ \text{forces} & (軍隊) \end{cases} $$$$ \begin{cases} \text{glass} & (ガラス) \\ \text{glasses} & (めがね) \end{cases} $$$$ \begin{cases} \text{letter} & (文字、手紙) \\ \text{letters} & (文学、学問) \end{cases} $$$$ \begin{cases} \text{look} & (一見) \\ \text{looks} & (顔つき) \end{cases} $$$$ \begin{cases} \text{manner} & (方法) \\ \text{manners} & (行儀) \end{cases} $$$$ \begin{cases} \text{part} & (部分) \\ \text{parts} & (地域、部品、才能) \end{cases} $$$$ \begin{cases} \text{return} & (帰還) \\ \text{returns} & (収益、報告(書)) \end{cases} $$$$ \begin{cases} \text{sand} & (砂) \\ \text{sands} & (砂原、砂漠) \end{cases} $$
- 衣服・装身具・器具(一対になっているものが多い)